音楽教育の最高峰「ジュリアード音楽院」での講師経験
をもとに音楽の真髄を伝える金関 環の個人・室内楽レッスン
偉そうなことを上に書いておりますが、そんな大仰なことでもございません。ただ、50歳を超えて最近やはり伝えたいことがあることに気づきました。
それは楽器のことだけでなく、音楽のこと、歴史のこと、私なりの愚かな人生の中で気づいたことなどです。
それは何かといわれると、説明にとても窮するのですが、私の学生として吸収する時代(20世紀末)にニューヨークでジョセフ・フックス(20世紀初頭学生期に19世紀後半の音楽家達から直接吸収した人)というヴァイオリニストからの薫陶を受けたことが大きな事だと思います。
私が何を教わったかといわれると、それも返事に困ります。あまりに沢山ありすぎ…私は師フックスや当時ジュリアードで教鞭をとっていた天才ヴァイオリニスト・藤原浜雄を通じて、プロになり大人になりましたが、実はまだ、頭の整理整頓ができていないのです(笑)。
整理整頓はできていなくとも、幸運な事にそれらの経験は大変に豊かです。それは他と比べ何が凄いか答えろと言われたなら、間違いなく私は「エスプリ(魂)」と答えると思います。 具体的に説明すると、大変長くなるのですが、当ホームページのフリースペース内、東京新聞に98年掲載したエッセイ「修業時代」の第2回「フックスの教育」に軽く触れてありますのでお時間があればご参照ください。しかしながら、口伝、奏伝の重要性についてはまだ触れておりませんのでここで軽くお話しします。 それは、レッスンと私生活で15年関わった、師フックスという歴史的媒体を通じて音楽史との接点ができたということです。彼が凄い人たちから得た薫陶、経験などを、ヴァイオリンで目に見えるように(耳に聞こえるように)弟子たちに伝えた。ということです。
フックスの音楽史的接点・・・例えば、ヴァイオリニストでいえば、ハイフェッツ、エルマン、ミルシュテイン、オイストラフ達との接点。何を認め何を否定し合ったか。フックスの師フランツ・クナイゼルのレッスン、クライスラーのレッスン。エネスコのレッスン。ウジェーヌ・イザイがフックスの師フランツ・クナイゼルに与えた、サンサーンスの欲しがった音色の演奏法。クナイゼルがイザイを通じて得たヴィエニアフスキーの指使い。ブラームスがクナイゼルに与えた訓示。他にもフックスがカザルスから受けた刺激。ラフマニノフとの会話。ラヴェルとの出会い。ヒンデミット、レスピーギ、ストラヴィンスキー、ウィリアム・シューマン達との会話。など枚挙に暇がありません。それらを、事細かに何度も聞き、ボーイング、フィンガリングなど自分で試しているうちに・・・いつしか、おこがましい言い方ですが・・自分もその音楽道場の最末席に鎮座しているような矜持(プライド)が湧いたものです。今でも、師フックスの演奏や話で表現した事を通じ、私が得た音楽史の重要人物の人となり、好んだ音色、テンポ、19世紀的空気感などは私に焼き付いており、これらのエッセンスを私はエスプリと呼びたいと思っています。